From "Dr Robert Buckman and Karl Sabbagh, Magic or Medicine? An Investigation into Heading (London, 1993)"

 古代の医療に関する記事で、ペルーのインカ族が行っていた頭蓋開口技術に触れています。英語原文に邦訳がついています。インカ族関する記述は以下。

ペルーのインカ族は頭蓋開口技術を習得していたが、その考えはは多くの異なった社会で起こったようだ。しかし、お互いに習得し合ったという可能性はほとんどない。もし私たちが、医者と患者における最初の関係の証拠を探しているなら、これが求めているもののようである。そして、それ以後のほとんどの医者と患者の関係のように、医者に対してよりも患者に対する方に、より大きな痛みを与える要因となっている。

頭部の穴は、きちんとしていて正確であり、たいていその周りに骨の新しい成長がある。これが示唆するのは第一に、その頭蓋骨の持ち主以外の誰かが頭蓋開口術を行ったのであり、第二に、その患者が生き延びたことである。それでは、その手術の目的は何だったろう。いくらか手がかりはある。穴はたいてい頭蓋骨のひび割れているそばで見つかっていて、それは骨折の影響を軽減しようと試みたことを示している。

たぶん、頭蓋開口術者はいくらか特別な技術をもっていて(あるいは、少なくとも神経の細かさが欠けている)、彼のプロの適性はおそらく、患者となる可能性のあるものが、彼のそれまでの依頼人の何人かが生き延びたことによって推測されたことだろう。サルジニアで見つかった紀元前1400年ごろの頭蓋骨からは、今は亡きその持ち主が4度目の手術で死ぬまでに、3回の手術を受けていたことがわかる。

ここには、頭痛の治療法の最初の証拠があり、おそらくは(これはもともと柳の樹皮から抽出された)アスピリンの発見より5千年かそれ以上だけ先行している。先史時代の治療者がかつて「この人の頭に穴を2つ開けて、朝になったら私を呼びに来なさい」と言ったかどうかは、私たちには決してわからないが、少なくとも次のことは確かだ。人類の社会的な組織が生まれかけていたころに、誰かが自分以外の人間を治療しようと、いろいろ試していたようなのだ。