四十日と四十夜のメルヘン [著]青木淳悟

高橋源一郎の書評。

 ふつうの小説は、あらすじを間違えずに説明できるのに、この小説では、説明しようとすると、必ず間違う。

 人が生きるということ(これは「人が言葉を使うということ」に等しい)は、とてもとてもとても複雑でやっかいなことで、小説というものは、そのとてもとてもとても複雑でやっかいなことを、再現するために存在している。だから、小説というものは、あらすじなんか説明しようとしたって混乱して間違えるものの方が正しいのである。つまり、青木淳悟さんの小説には、「人生」が描かれているのだ。えっ? では、他の人の小説に書かれているものは何?
 たぶん、何にも書かれてないんじゃないですか。