「マトリックス」は現実の暴力に無関係と主張 製作者@CNN.co.jp

 ワシントン・ポスト紙がオハイオ州の女性とサンフランシスコの男性による家主殺害事件に同映画が影響した可能性の存在を報じた問題に対し、プロデューサーのジョエル・シルバーは「(映画は)現実世界には存在しない空想の話に過ぎない1500万人が映画を観ている。ただ、関連性は分からないとしか言いようがない」と答えた模様。また、ローレンス・フィッシュバーンも「マトリックスは存在しない」とコメントしたそうです。
 こちらのEscape 'The Matrix,' Go Directly to Jail(「マトリックス」を逃れ、刑務所直行)ワシントン・ポストが報じた記事です。以下、記事の一部をまとめます。

映画と同様に、この世界がマトリックスによる幻であると信じた人々が起こした事件が複数起きている。例えば、「マトリックス」の大ファンのジョシュ・クッキー(19)は、ベッドルームには大きなポスターと「ネオ」のようなトレンチコート。さらには、「ネオ」が「エージェント・スミス」と戦うときに使った物に似ている12口径のショットガンを買いました。
 そして、警察発表によれば二月十七日、彼は家の地下室に下りると、そのショットガンで父を七回、母を二回撃ち殺した後、二度警察に電話をかけると落ち着いて殺人を犯したことを告げたそうです。 彼を診察した精神科医によれば、この時彼は自分が「マトリックス」の創り出した仮想現実の中にいると信じきっていたのです。
 メディアにおける暴力の影響の専門家も、ある映画や番組がこのような棒量的な衝動を引き起こすとは、一般的に考えていません。しかしながら、特に若者や影響の受けやすい人達に対して、メディアにおける暴力は累積的な影響があると信じています。ウィスコンシン大学でメディア暴力の研究を行ってきたジョアンヌ・カンターは「暴力的な犯罪が起きたとき、それを単一の原因に帰することはできない」と言います。加えて、「私の考えでは、メディア暴力は実際に影響を受けやすい人々に大きな影響を与えるのです。彼らが「映画に影響を受けた」と言うならば、恐らくその映画は犯罪を計画する時に頭に浮かんでいたのです」

 このように記事は、メディアが映し出す暴力の影響を危険視しています。しかし、メディア暴力は本当に、犯罪を起こさせるような影響力を持っているのでしょうか?
 宮台真司は、「暴力的メディアが人を暴力的にするという「強力効果論*1」は科学錯誤で、元来暴力的な人が「受容文脈*2」次第で引き金を引かれるとする「限定効果論*3」が正しい。」と述べています*4
 この限定効果論はクリッパーという学者が六十年代に唱えた学説で、メディアの影響力は、ある人がそれまで全く持っていなかった性質を持つようになるほど強力では無く、その人がもともと持っていた性質にのみ影響を与えられる程度の力しか持っていない、とする説です*5。このようにメディアは「引き金」にはなりえても、犯罪の原因である「火薬」とは成りえないとされています。実際、これまでもメディア悪影響論は何度も唱えられ様々な研究がなされたにも関わらず、「強力効果論」を裏付けるような証拠は見つかっていない。にもかかわらず、メディアが悪者になるのはなぜでしょう。よく分からないものを悪に仕立てて安心する手法はいつの時代にも使われてきました。目先のメディアを攻撃するよりも、真に原因となっている問題に注意したいものです。
 それでは、今週末に行われる「マトリックス・リローデッド」の先々行上映に心置きなく行って来たいと思います。

*1:暴力的なメディアが子どもを暴力的にする、性的なメディアが子どもを性的にするという説。メディア悪影響論。マスコミ効果研究で繰り返し実証が試みられたが一度も実証されていないという。一方、科学的に実証されているのは限定効果論と受容文脈論であるという。

*2:引き金を引くかどうかを含め、メディアがどういう影響を与えるかは受容文脈、すなわちどういう状況でメディアを享受するか(親と見るのか、友人と見るのか、一人で見るのか等)によって影響が変わるとする説。

*3:もともと暴力的な性質を持つ者が、メディアによって引き金を引かれる可能性があるとする説。以上三つの説明はhttp://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/reference/terms.htmより

*4:宮台真司宮崎哲弥「M2 われらの時代に」p235-6

*5:http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/7276/col01.htmhttp://members.jcom.home.ne.jp/semaki/zipokin/6.htmを参考に