通過儀礼

 通過儀礼(イニシエーション)についていくつかコレクト。
 まず、境界と通過儀礼による通過儀礼の定義。

通過儀礼とは、外部の人間が新たに共同体に加入する時に行われるイニシェーションの儀式のことである。

代表的な通過儀礼は、男の子(場合によっては女の子)が、母親との甘えた関係を断ち切り、成人の仲間入りをするときに受ける割礼である。割礼とは性器の一部を「断ち切る」儀式で、男の子の割礼の場合には陰茎包皮を切除し、女の子の割礼の場合には陰核の全体あるいは一部を切除する。割礼は、イスラム教圏、ユダヤ教圏、アフリカ、アジア、オーストラリア等で行われ、全世界の割礼人口は10億人と推定されている。

日本の成人式では、割礼は行われないが、縄文時代では、上顎の両犬歯と、下顎の前歯2本を左右対称に抜き取る抜歯が、成人となるための通過儀礼として行われていた。今でもオーストラリアでは、抜歯をしている民族がいる。この他、小指や耳たぶの切断、鼻の隔膜や処女膜の穿孔、頭蓋変形、唇や首の伸長、瘢痕文身など、痛々しい身体毀損と暴力が通過儀礼として世界各地で行われている。

 そして、イニシエーションの成立条件がこちらの記事に。現代において「成人式」というイニシエーション儀式は成立するのか?で、河合隼雄の著作に挙げられていたものの要約があります。ちょっとその要約の範囲が曖昧ですが、多分以下の場所だと思われます。

>未開部族において行われる成人式は一般に次の4つの要素から成り立っている。
①「聖所」を用意すること。 ②母親から引き離すこと。③隔離された場所で部族の宗教的伝承を教え込まれる。④ある種の手術、あるいは試練が与えられる。(割礼、抜歯、皮膚に傷をつける、毛髪を引き抜く)
このような社会においては、子供と大人との境界が曖昧になることはなく成人式という凄まじい儀式によって、子供はまったく「別人」になったように社会の成員としてふさわしい大人になる。彼らは大人としての自覚と責任を備えた人間となるのである。
このようなイニシエーション儀礼が成立するためには、その社会が完全に伝承社会であることを必要としている。このように古代社会は「進歩」という概念は存在せず、既に出来上がった社会に「入れてもらう」ことが最も重要で、そのための「イニシエーション儀式」が決定的な意味をを持つ。しかし、近代社会はその特徴として「進歩」の概念を持ち、社会は変化して行く存在であるならば、「成人式」といった「イニシエーション儀式」というものは既に意味を持たなくなってしまった。

 で、実際にはどんな感じなのかと言うと、こんな感じらしい。西アフリカ、マリ共和国のバンバラ共同体における女性の生を扱った「農村社会における女性の生活 −マリ共和国・バンバラの事例− 」から、その女性のイニシエーションに触れている箇所を引用。

8)イニシエーション割礼

バンバラ社会では、割礼を受けない人間は、いつまでたっても大人とは見なされません。割礼を受ける年齢は、だいたい5歳から10歳のあいだです。割礼は、2−3年に一度の割合で村の男の子あるいは女の子を集めて、男女別々に行われます。
原野で割礼を受けた子供たちは、村に戻り、監督役の大人(男子割礼なら男性、女子割礼なら女性)の小屋で2−3週間、共同生活を送ります。その間、村では割礼後1週間めに大きな祭りが催されます。
http://www.africa.kyoto-u.ac.jp/lecture/hosaka/8.htm

9)婚約時代
割礼を終えた女の子は数年すると、父親から、○○村の○○の家族で一週間を過ごしてくるように言われます。滞在先の家族では、年輩の女性の小屋に身をよせて、彼女の家事や畑仕事の手伝いをします。こうした滞在はその後も続けられます。そして二回目からは、雨季の大半を、同じようにしてその家族で過ごすことになります。これは、その娘がいずれはその家族に嫁ぐということを意味しています。そうやって雨季を何回か過ごすうち、滞在先の家族の年輩男性から、将来の夫が誰かを告げられます。
娘たちにとって、自分の家族とその家族との行き来を繰り返すこの期間は、いわば婚約期間とも言えるものです。
http://www.africa.kyoto-u.ac.jp/lecture/hosaka/9.htm

10)結婚
数年間の婚約期間ののち、娘が夫の家族に移り住む日、結婚の日とも呼べる日がやってきます。結婚式は夫の村で行われます。花嫁となる娘は自転車の後ろに乗せられて、昼前に自分の村を後にします。その後から、村の女たちが彼女の花嫁道具を頭に載せて、夫の村に徒歩で出発します。男たちはそれより遅れて、自転車で行きます。
夕方までに娘の親族や村の人たち、夫の親族が夫の家族に集まって、祭りが始まります。夫の家族からはごちそうが振る舞われ、一晩中、歌や踊りが続きます。その間、娘は夫の小屋にこもっています。そして一夜があけると、娘の村の人たちは、女の子を彼女のもとに一人残して、午前のうちに村に帰っていきます。女の子は一週間だけ娘を手伝うようにと残されるのです。妻となった娘は、結婚式の翌日から、既婚女性としての日常生活を開始します。
http://www.africa.kyoto-u.ac.jp/lecture/hosaka/10.htm

 通過儀礼は様々な形をとりますが、擬産という通過儀礼では、男性における出産という通過儀礼について取り上げられています。

カリブの民族、アカワイオや、ほかの未文化の民族には、父親にもちょっとした通過儀礼があった。たとえば、アカワイオ族では、産後9日間(へその緒がとれるまで)、産婦ばかりでなく、夫もまた、禁止事項がたくさんある。夫は仕事をせず、1日中火を焚き続ける。ナイフや斧、銃を使うのも禁止。森へ入ってもいけない。食事にも禁止がある。子どもが病弱な場合には、9日間という期間はさらに延ばされる。
おもしろいのは、こうした禁忌が夫婦双方にあるということ。これは、出産が女性だけの通過儀礼だけでなく、父親にとっても通過儀礼としているのだ。こうした儀式を通して、妻だけでなく、夫も父親として自覚していくのだ。

 最後に、通過儀礼に関する書籍を二つ。A.ファン ヘネップ 「通過儀礼」大塚英志 「人身御供論 供犠と通過儀礼の物語」