トレパネーション

 今日はスピリッツで連載中の「ホムンクルス」で扱われている「トレパネーション」(頭蓋開口術)に関する情報を集めてみます。
 まず、概略を。Skeptic's DictionaryによるTprepanationの項目の全訳です*1

トレパネーション

「天才とは、肯定と否定の違いを生まれたときから知っている人だ」
   Bart Huges医師

 トレパネーションは頭蓋骨に穴を開ける処置のことです。Tulane大学人類学教授のJohn Veranoは、トレパネーションは最古の外科手術で、今でも、いくつかのアフリカ部族によって儀礼的に行われていると言います。フランスで発見されたトレパネーションを施された頭蓋は、紀元前五千年ほどのものと考えられている。ペルーとボリビアの千程度のトレパネーションされた頭蓋は、紀元前五百年から、十六世紀までを記録している。
 いくつかの自己手術以外に医療を行ったことのない医学校卒業生の、Bart Huges(1934生)が信じているのは、トレパネーションがより高い意識への道だということである。彼は精神科医になりたかったが、産科のテストに失敗し、医者になるとはなかった。そう彼は語った。LSD大麻などの薬物による数年間に渡る実験を経た1965年にHuges医師が気づいたのは、頭蓋に穴を開けることこそが、悟りへの道だということである。彼は電気ドリル、メス、注射(局部麻酔のため)を使った。手術には四十五分かかった。悟ってどう感じますか?「十四でやったときと同じように感じるよ」Hugesは言う。
 なぜHuges医師はトレパネーションで悟りに到達できると信じたのだろうか? 彼が最初にこのことを直感したのは、逆立ちでハイになれると教えられた時だった。(頭蓋による脳への)圧迫を常に取り除いて脳に流れる血液の量を増やせば、彼の目的は成し遂げられると信じるようになった。少しばかりメスカリンをキメると、彼はすぐに何が起きているのか理解した。「意識が拡大するのは、脳に流れる血液が増えたからだって分かったんだ」なぜこんな簡単なことが何百年間も科学者にも、神秘主義者にも分からなかったのだろうか?
 これまで、トレパネーションは病やトラウマによる圧迫を取り除くため、もしくは悪魔を祓うために行われてきた。後者は、悪魔の存在よりも科学を信じるようになった地域では完全に消え去った。Hugesは大勢とは言えないが、頭に穴を開けた数人の支持者をもつことができた。彼の最も有名な弟子のAmanda Feilding(イングランド、オックスフォード出身)は、撮影された自らの手術を生き延びただけでなく、議員候補にもなった。National Health Serviceに無料のトレパネーション手術を提供させることを公約に掲げた1978年の選挙で、彼女は40票獲得した*2
 Feildingは頭蓋に開けた穴は脳に多くの酸素をもたらし、意識の拡大を助けると主張します。LSDより安全だ、と。この二つだけが意識を拡張させられる、と彼女は明らかに信じているのですが。今や、エネルギーやインスピレーションに溢れているし、「永続的なナチュラルハイ」にいられると語ります。トレパネーションを受けた人は「神経症うつ病にも強く、アルコールや薬物に中毒になることも少ない」と言います。彼女は、とても心が開けている、と言えるでしょう。

原文はこちら

 Bart Huges医師へのインタビューThe Hole to Luckで、彼がトレパネーションをすると決めた理由が述べられています。

M:いつ第三の眼をつくると決めましたか?

H:刑務所で、中枢神経外部の背中を流れる脳脊髄液を観察してメカニズムをチェックした後、脊椎の底に穴を開けて脊髄液を放出させることを思いついたのです。その一方で、脊髄液を完全に流すためには、圧迫する必要があることに気が付いたのです。それで、成人の頭蓋内部の圧力をゼロにすることを結論としました(多くの人は、十八歳から二十二歳の間に頭蓋が閉じられる)。しかし、脊髄に穴を開けても圧力が戻ってしまうことが分かりました。そのため、少しの後に、脊髄の穴は治癒してしまうたので、穴が開いたままでいられる頭蓋に穴をあけるべきと気づいたのです。

 それでは、なぜ頭蓋に流れる血流を増やすことが重要なのでしょうか? それは、頭蓋に開いた穴が可能にする、赤ん坊の脳の爆発的な成長に関係があります。
こちらの「ひよめきの隅」醗酵夢onlineには、ホムンクルス一巻p.146-8で言及されている、新生児頭蓋のすきま、「ひよめき」に関する記事です。この箇所には頭蓋骨の穴に起きる変化に関して、こう書かれています。

 「人間というのは元々、生まれて一歳半までは頭蓋骨に隙間があって、穴が開いている状態なんですよ。それが塞がって、さらには大人になるにしたがって、頭蓋骨がギューッっと閉じていく感じなんですよ。よく大人が「オマエの頭はガチガチだなあ」なんて表現があるじゃないですか。この閉じてしまった成人の頭蓋骨に穴を開けることによって、頭蓋骨内の圧力が変化し、脳に大量の血液が流れるようになり、脳の活性化した状態を取り戻すことができるとと言われています」
 「すなわち今の名越さんは……赤ん坊の頃の脳全体が活動している状態なんです」

で、この記事はなぜ人間が頭蓋に隙間がある状態で生まれることになったのか、についてです。要約すれば、直立歩行という形で進化した人間は内臓の落下を支えるためにお椀型の骨盤が必要。しかし、そのために産道が非常に狭くなってしまった。そのため脳が肥大した人類には、頭蓋が産道を通り抜けられる未熟児の状態で出産せざるを得なくなった。で、十八ヶ月後頃にもっとも大きなすきまである「大泉門」が閉じるということです。

*1:自分が訳したので間違いもあると思います。悪しからず。

*2:What's the story on trepanation?を確認したところ、どうやら誤訳でした。訂正します。